GABAN®

LATURE ラチュレアイコン
東京都渋谷区渋谷2-2-2青山ルカビルB1

2016年オープン。ジビエ料理に定評があり、わずか1年余りでミシュランガイドの星を獲得。王道のフランス料理の伝統を継承しながら、現代的なセンスが光るプレゼンテーションも魅力。

川合シェフが語る「色と香り」のスパイス

どちらも1:1の同量で混ぜる2種類のミックススパイス。ジビエの種類、肉質や香りによる特徴を知り尽くしたシェフならではのスパイス使いのセンスが光ります。

  • スパイス

    パンデピス

    使用メニュー<羆のシヴェ>
    フランスの伝統焼き菓子に使用されるパウダータイプのミックススパイスから着想を得ました。本来はパウンドケーキやクッキーなどに用いるスパイスです。シナモン、ジンジャー、クローブス、スターアニスを配合し、甘くて重みのある香りを楽しむもので、長時間煮込んで濃厚なうまみを凝縮した羆との相性が良いと思いますよ。今回のポイントは、アクセントとしてコリアンダーを加えたこと。濃厚な中にも、さわやかな後味を添えました。

  • スパイス

    パンチフォロン

    使用メニュー<雉のパテ・アンクルート>
    インド東部やベンガル地方のホールタイプのミックススパイスをアレンジしました。現地では油に香りを移して使うものですが、今回は雉のミンチに練りこむため、ミルで粗めに挽いて加えています。
    オリエンタルな香りが特徴のミックススパイスは、どっしりとした赤身肉よりも、雉のように淡白な白身肉によく合います。セロリーやフェンネル、コリアンダー、クミンなどをブレンドし、繊細な中にも個性的な味わいを楽しめるよう工夫しました。

ジビエにあこがれ、魅了された。

ジビエの扉を開いた、ひと皿のブーダンノワール

子どもの頃から料理が好きでした。家族に焼きそばを作り、ふるまったりして(笑)。自分が作った味をおいしいと言ってもらえることが嬉しかったし、食材が料理になる過程に興味がありました。調理師学校へ進んだのも、自分にとってはごく自然な流れで、一人前を目指して勉強する日々は、とても充実していましたね。
修行時代は機会があれば、気になるレストランへ出かけ、料理を楽しみ学びました。その時に出会ったひと皿、銀座の「ル・マノワール・ダスティン」の五十嵐シェフが作る「ブーダンノワール」が、私とジビエの初めての出会いです。

ブーダンノワールはご存知の通り、ブラッドソーセージ、いわゆる「血のソーセージ」です。まず、獣肉を血までおいしく頂く調理法があることに驚いた。当時の私には想像を超えた世界だったのです。
今思うと、フランス料理は、血だけでなく、臓物も、骨すらも全ておいしい料理に昇華させる探究心と知恵に長けています。その奥深さと、何よりおいしさに魅了され、自分もいつかはジビエを扱う料理人になりたいと思いました。

ハンターとして、食材に向き合う

本格的にジビエ料理を学ぶために、銀座の「タテルヨシノ」で修行しました。フランス料理にとってジビエは最高級食材。あこがれの世界で、毎日現場でジビエに触れ、料理ができることが何より嬉しかったことを覚えています。また、日々食材に触れる中で「ジビエ食材には何ひとつ、同じ素材がない」という教えを体得したのもこの時でした。
ジビエは自然の中で育まれますから、当然、気候や環境に大きく影響を受けます。住んでいる地域、食べているもの、さらに狩猟方法によって肉質は全く異なる。ジビエを扱う料理人は、個体ごとの特徴をとらえ、調理法を工夫する技術と知識が必要で、毎回同じレシピで料理をするということは、まずありません。

そう考えるとジビエはある意味「不安定な食材」と言えるかもしれませんが、目の前にある食材のおいしさを引き出す仕事は料理人としてとてもやりがいがあり、ますますジビエの魅力に惹かれていきました。
そうして日々厨房でジビエ食材と向き合ううちに、自分自身で野鳥獣が育つ現場を知りたいという気持ちが高まり、26歳の時に狩猟免許を取得しました。仕事の間をぬい、先輩ハンターと一緒に野山へ出かける日々でしたが、実は最初の1年は全く獲れませんでした(笑)。でも次第にコツをつかみ始め、同時に料理に理解のあるハンターの方々とのつながりが広がって、少しずつ良質なジビエが仕入れられるようにもなりました。
私が狩猟に携わるのは、料理人が折にふれて生産者のもとを訪れ、食材を吟味することと同じです。野鳥獣は、10頭いたら10通りの個体差があります。全てが同じではなくても、プロの料理人としてはそれぞれおいしく料理ができる上質なものを仕入れなければいけません。自然相手のことですから、いつも同じクオリティのものが手に入らないことは当然。でも野山でハンター仲間と行動を共にすることで食材の素性がわかるし、良し悪しを見極める目が鍛えられる。「食材の出所を知る」ことは、すべての料理人にとって大事にするべき姿勢だと思うし、お客さまに喜んでいただける一皿を作る基本だと思っています。

室田シェフ直伝 雉の下処理

ジビエは、自然を凝縮した「雫(しずく)」のようなもの

「ラチュレ」という店名は、フランス語で「(自然の)雫」という意味を込めた私の造語です。私たちの料理に欠かせないジビエ食材は、養殖ではなく自然の中で育まれるもの。いわば、自然を凝縮した雫です。日々、その恵みをもたらしてくれる自然環境に敬意を払い、この名前を選びました。
料理人にとって、「食材の命を頂く」という感性を養うことは、究極の修行であり、どんなに経験を積んでも忘れてはいけないことだと思っています。野生のジビエは、生き物の命と向き合うという姿勢を教えてくれる、とてもいい食材だと思いますね。下処理をしていない、毛がついた状態の野鳥獣を手にとってさばくことで、食材を大切に扱う意識が養われるし、お客様へご案内する料理一皿ひとさらに、思いがこもりますから。

また、料理はもちろん内装やインテリア、テーブルセッティングも、四季ごとに季節の移り変わりや旬を感じるようなイメージを盛り込み、訪れるたびに違う表情を楽しんでいただけるよう演出を凝らすことも、ラチュレのこだわりです。
レストランで食事をするという経験は、おいしいことはもちろん、新しい発見や気付き、または癒しといった豊かな時間をもたらす時間であってほしい。私たちがご案内するジビエ料理が、そうした食の価値を生み出すものであれば嬉しいです。

食材のあるべき姿とは

一方、少し残念な話ではありますが、最近の食事情は、自然への敬意や感謝といった気持ちが薄くなっているのではないか、という実感があります。
私がジビエにこだわるのは、食材としての可能性はもちろんですが、鹿や猪、熊による農作物被害に危機感を持った一面もあります。農家が育てた野菜や果物が、野生の動物に食い荒らされてしまうという現状は、いかにも動物たちが悪いように思われ、「駆除」という名目で無尽蔵に仕留められているけれど、それはもともと、人間が起こした自然環境の破壊が原因。

人工的な開発による自然環境の破壊が野生動物の住む場所を奪ったことで、本来は山の中で暮らしている動物が農地にまで降りてきて、人間との軋轢が生じているのを、見過ごしてはいけないと思っています。 ハンターも、料理人も、食べる人も、ジビエに関わることで増えすぎた野鳥獣を良い形で消費し、さらに自然環境に意識を向けることができれば、未来の食事情を守る一助になるのではないでしょうか。
また、ジビエに限らず、ラチュレで扱う野菜は、可能な限り私の出身である千葉県産のものを選ぶようにしています。フランス料理は、地元の野菜をおいしく料理するのがとても上手。「地産地消」という言葉が生まれてしばらくたちますが、あえて今、地産地消に興味がありますね。とにかく千葉県をなんとかしたい(笑)。
ジビエでも、野菜でも魚介でも、食材はやはり、地場で採れたものがおいしい。そのおいしさを料理に昇華し、紹介するのは、料理人の大事な仕事だと思います。話題のレストランが都市部に集中している中、私はあえて、日本全国に、地域の食材を生かしたうまい料理を作るシェフが育つことを夢みて、何かできないかな、と画策しています。